自室へ向かって宣言通りの現像をしつつ、莉胡ちゃんのスマホをコールする。

なかなかつながらないそれに出ないかと思った瞬間、うしろで騒音と、ひそめた彼女の声が聞こえた。



『びっくりした……ごめんね……

いま東西幹部でご飯きてて、』



「仲良しだね」



『うん……っていうかさっき倉庫前に送られたせいで、わたしものすごく怒られたんだけど……

さすがに取引のことは話してないけど、色々言わされたんだからね』



「はいはいごめんね。

でも言い出したのは莉胡ちゃんでしょ?証拠がそろった時点で於実は帰して欲しいっていうわがままにも応えたし、きみのわがまま通りに俺は動くよ」



『うん。……だから今度、もう一度話そうね』



そうだね、と返せば、すこし焦ったように「ごめんそろそろもどらなきゃ」と莉胡ちゃんが口にする。

まだ会話して2分にも満たないけど、ばれたら色々めんどくさい。わかったと通話を終わらせて、現像した写真を封筒に詰め、何事もなかったかのように万智に渡した。




……あの子は、たぶんものすごく頭がいい。

それこそ、俺を退屈に感じさせないほど、ものすごく。



取引の内容を口に出された時は、一瞬ぽかんとした。

それから声を出して笑ってしまうほど、彼女との取引は俺にとって得だったと思う。



退屈しないのはひさびさだ。

人工知能を使っている、普通なら簡単には勝てないであろうパソコン内蔵のチェスゲーム。カチカチとマウスでそれを進めて、ふうと一息。



「……莉胡ちゃんといたら、」



なんとなく。

無機質な人間にも、息を吹きかけるようなスピードで失ったはずの感情が芽生えてくるような気がする。



さみしいと感じたわけじゃない。

だけど彼女が与えてくれた時間は、たしかに俺にとって楽しいもので。



暇つぶしになんてなるわけないのに、なんとなく暇つぶしで行っているチェスゲーム。

いつも表示される勝率100%のリザルト画面に、デカデカと『You Lose』と表示されたのを見て、思わずくすりと笑みが浮かんだ。