「……、まじでなに邪魔してくれてんの」



ああ最悪、とつぶやく千瀬。

なんだかふたりで盛り上がってしまって昨日の喧嘩はどこへやら、ひたすらイチャイチャとキスしてたわたしたちのテンションに終止符を打ったのは、部屋にきたお母さんと千瀬ママで。



「あんた熱ある莉胡ちゃんに何してるの」と、そのイチャイチャ現場をしっかり見られて千瀬ママから千瀬へお怒りが落ちた。

お母さんから千瀬が学校に行ってないことを聞いて見に来たらしいのだけれど。



引き止めたのはわたしだから、さすがにちょっと申し訳なかった。

……ごめんねって謝ってからキスしたら機嫌はなおしてくれたけど、やっぱりちょっと納得いかないらしい。



寝てていいよと一度家にもどった千瀬は、すっかりわたしのそばから離れる気がないようで。

制服からゆるめの私服に着替えてもどってきたかと思うと、手には例のファイルが1冊。



だけど一向に目を通す気がないからじっと彼を見上げたら、「いまは莉胡のこと優先しようと思って」とずっとわたしが眠るまで、ゆっくり会話してくれた。

千瀬ママはちょっと怒ってたけど、そういえば学校に行ってないことには何も怒ってなかった。



そこはいいんだ……

普通そっちを怒らなきゃいけないのに……とは思ったけれど、やっぱり行ってほしくはない。




「わたしのわがまま……

いっぱい聞いてくれて、ありがとう」



きゅっと千瀬の服の袖を握って。

ゆっくりのリズムで交わしている会話に徐々に疲れた身体が追いついて、途端に眠気に襲われる。



「熱が下がるまでゆっくり寝なよ。

……もう寝てる莉胡に勝手にキスはしないから」



くすくすと、笑い合って。

おやすみなさいを言ってから目を閉じると、身体が重くなったような気がする。



千瀬が来たときは意識をたもっているだけで精一杯だったはずなのに、すっかりイチャイチャしてしまった。

好きな人のパワーってすごい。千瀬がそばにいてくれるだけで、なんでもできそうな気がする。



「……おやすみ、莉胡」



浅い呼吸の中で、やっぱり熱上がっちゃったのかなと思いながら。

耳に届いた心地良い声に逆らうことなく、眠りに落ちた。