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「ねえ、千瀬」



ごろんとベッドに寝転んで、どれぐらい経っただろう。

軽く2時間は経っているのに、この部屋の主は一向にわたしに構ってくれない。……というのも、HTDに関する資料を読んでるからなんだけど。



スマホで由真ちゃんとメッセージのやり取りをしたり、音楽を聴いてみたり。

散々暇つぶしはしたけれどいい加減構って欲しくて、ベッドの端に寄るともたれかかっている彼の後ろから肩に手を置く。



「肩に体重かけないで。重いから」



「女の子に重いって言っちゃだめ」



「俺いま忙しいから後にして」



後にしてって、まだそのファイル1冊目じゃない。

どうせ4冊とも読むんだから、構ってくれないのはわかってる。だけどせっかく同じ部屋にいるんだから、構って欲しいのに。




「……下で千瀬ママのお手伝いしてくる」



全然会話すら成り立たないから、面白くない。

付き合った頃はそばにいられるだけでうれしかったのに、付き合ってからは欲張りだ。──ううん、ちょっと、違うのかもしれないけど。



千瀬と付き合ったのは去年の夏。

それからしばらくは千瀬もたくさん愛情をくれてこれ以上ないぐらいしあわせだったのに、すこしそれが変わったのが先月。



月霞の7代目になったことで、わたしに構うのもむずかしくなって。

添い寝だけのお泊まりも、先月からは1度もしてない。休みの日のお家デートもなくなって、いまじゃ毎週倉庫にこもりきりだ。



「どうしたら千瀬が構ってくれると思う?」



「ふふっ。千秋と付き合った頃、蜜香(みつか)ちゃんも同じようなこと言ってたわよ。

……そうねえ、ふたりともパパに似て、好きな子を手に入れるまでは必死なのに、手に入れてからはあんまり焦ってないっていうか、マイペースよねえ」



千瀬ママの言う蜜香ちゃん、とは。

千瀬の義理のお姉さんで、ちあちゃんの奥さんだ。