「わたし……千瀬に、傷ついて欲しくないの。

精神的ダメージを負って欲しくない」



「……渡すつもりはないって言ってるでしょ」



「でも向こうは千瀬がそう言えば、きっと強行突破しようとするでしょ……?

そしたら……精神的なダメージはなくても、肉体的にダメージを負うかもしれないじゃない」



「……まあ喧嘩したらそうなるけども」



「嫌なの……、

どっちも、傷つけて欲しくないの……」



俺の服を握る莉胡の手が、震えてる。

傷ついて欲しくないと言いながら。……そうやって一番傷ついてるのは、莉胡なのに。



心配しなくていいよと言ったところで、心優しいこの子はきっと納得してくれない。

確実に無事だという保証があるまでは、引き下がらないのが莉胡だ。




「……わかった。

無理はしないし自分のこともちゃんと守るようにするよ」



「……うん」



「だけどやっぱり……

莉胡をいちばんに守るのだけは、譲れない」



莉胡がわずかに顔を上げて目元だけを見せてくれるけど、瞳にはじわりと涙が浮かんでいて。

譲れないよと念を押せば、しばらく考え込むように黙り込んだあと、小さくうなずいてくれた。



「……ん。うなずいたんなら、もうそんな顔しないで。

顔上げてくれないとキスできないよ」



「……千瀬、」



「ん?」