【Side Chise】



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「いつまでそんな浮かない顔してんの」



『6月3日』のメモが置かれていたあの後は、もう何も起こらなかった。

西の幹部とももう一度話し合うことを決めて、気を遣いながら莉胡と帰宅。なんかあったらあぶねえから、って、ミヤケもわざわざ来てくれたし。



そういうところは本当に優しいと思う。

……絶対にあいつには言ってやらないけど。



ついでに月のペンダントの中身を入れ替えるためにそれをふたつ回収して帰ったミヤケからは、さっき無事についたと連絡もあった。

だからいまの俺の目前の問題は、じっと黙り込んで浮かない顔をしてる莉胡だ。



「……だって」



ふたりきりでいるとき、なんだかんだ莉胡は甘えてくる。

感情に素直な子だから、さみしくなったら俺が声をかけてやらなくても自分から抱きついてくるし、触れ合いたくなったらキスだって強請ってくるし。



頑なに俺に近づこうとしない莉胡に「おいで」と言えばちょっと泣きそうな顔で俺を見たあと。

促すように名前を呼べば、擦り寄ってきた莉胡がようやく腕の中におさまる。




「莉胡のせいじゃないって言ってるでしょ」



「そっちじゃない……」



「……相手の指定してきた日が俺の誕生日だったこと?

そんなの別に俺は気にしてないよ」



すっかり色が抜けた元の黒髪を優しく撫でる。

大きな瞳がじっと俺を見つめて、それから俺の服をぎゅっと握ったかと思うと、甘えるように胸に顔をうずめてくる。



「羽泉が……

千瀬に精神的なダメージを与えるために向こうが誕生日を指定してきたんじゃないかって、言ってたじゃない……」



「言ってたけどさ。

まさか俺が、あっさり莉胡のこと渡すと思ってんの?」



何年かけてようやく手にしたと思ってるんだ。

もう二度と離すつもりはないし、莉胡だってそれは重々承知してるはず。……なのに。