あなたに捧げる不機嫌な口付け

黙り込む頑なな私をなだめるように、緩く首が振られる。


掠れた声が追い打ちをかけた。


「ごめん。……ごめん祐里恵、やだ」


私の髪と重なって小さな音を立てた茶髪の近さに、息を呑む。


「私だって嫌……!」


やだ、じゃない。そんな台詞を吐かれても困るのだ。


こうなるかもしれないって気づいてはいた、でも覚悟なんかしていない。


だって、それが約束で。


諏訪さんは約束を守ると思ったのに。

取り決めを重視するなら、一緒にいて楽しいかもしれないって思ったのに。


怒ってはいない。悔しくも、悲しくもない。まして、後悔なんてしていない。


ただ、諏訪さんが約束を破ろうとしているのが寂しかった。

私との約束を破ろうとしているのが、私を軽んじているみたいで寂しかった。


「諏訪さん、離して、お願いだから、離して」


笑って、また今度って言ってよ。


じゃあねって見送って、この熱い手のひらをへらりと振ってよ。


「……はなして、諏訪さん」


何だって、お菓子を食べに来ただけの場所でこんな目に合うのか。


美味しいコーヒーを提供してくれたら、それでいいのに。

後は帰るだけなのに。


なぜ、なぜ、……どうして、諏訪さんは、こんな濡れた瞳で私を見ている。