あなたに捧げる不機嫌な口付け

「っ」


慌てて全身に力を入れて体勢を何とか持ち直した。


座ったままどんどん傾いていく姿勢に意地で抵抗して、ぐぐぐ、と諏訪さんから顔を背ける。


このままでは諏訪さんに倒れ込んでしまう。


捕まった状態で避けられるはずもないから、必死に俯いて、顔を遠ざけて、体を引き離す。


両手が捕まっているのは不利だった。


「祐里恵」

「言わないで」


何を言われるかなんて分かっていたから、先回りする。


断る権利はあるはずだ。


諏訪さんがあの約束を守るなら私はここに来るし、守らないなら離れるだけ。


意地でも私からは破らないと決めている。全ては諏訪さん次第。


だから、流される義理も、断れない理由もない。


そもそも諏訪さんは、ただ愛でるだけの人形なんていらないでしょう。


自分で見聞きして、判断して、自分で選ぶ相手と駆け引きをしたいんでしょう。


私に選択肢を残しているのはそういうことだと思うから。

今までが、そうだったから。


「嫌。カヌレ食べたい」


ねえ、諏訪さん。


だから、お願いだから、とりあえず、熱いこの手を離してよ。