あなたに捧げる不機嫌な口付け

捕まえられた手を無理にでも引き抜きたいのに、引き抜けない。


今まではそんなことはなかった。


これほど強く握られたことがなかったから知らなかった。


こんなところで、本当に、こんな何でもないただの我がままで、今さらいつもの手加減を思い知らされて、苛立つ。


「諏訪さん、離して」

「やだ」


痛いから離して欲しいと言えば、諏訪さんはすぐにでも離してくれるだろう。


でも、痛くないのに嘘を吐くのはフェアじゃない。


別に、この逃げられない状況を怒る気はないんだ。


いつかはこうなるかもしれないのは分かっていた。


それでも来たのは私だ。


嘘を吐くのも、悪しざまに言うのも、諏訪さんの矜持に傷をつける。


そして私は、別に、諏訪さんを無意味に傷つけたいわけじゃない。


「コーヒーが飲めないから離して」


この言葉は気に入らなかったらしい。


無言で強く手を引かれた。