あなたに捧げる不機嫌な口付け

「了解。ねえ、キスしていい?」

「駄目」


了解と言ったくせに絶対何も分かっていない反射速度に、こちらも負けじと不可を出す。


カヌレ持ってっといてって言ったでしょ。持って行ってよ。


お湯を注いでいるときに、まさか強行手段には出ないだろう。


受け取ったカップを携えて、足早にやかんの前に移動した。


ムラなく全体に回しかけるようにゆっくり一周。

お湯が縁に近くなったら一旦止めて、水気が切れてきたらまたゆっくり一周。


わざと時間をかけて丁寧に注ぐ。


これで美味しくなるのも本当なんだから、私は悪くない。


できあがったコーヒーを持ってしまえば、もっと危なくて何もできないだろう、ということで、二人分を持って諏訪さんに向き合うと、諏訪さんの方がいささか上手だった。


コースターをテーブルの上に置いて待っている。


にこにこと、笑顔で待っている。


……すごく、ものすごく、全くもって行きたくないんだけど、ここで一気に飲んでしまって、そのまま帰ってもいいだろうか。


……駄目だ。行儀が悪い。


私は自分の常識に自分の身の安全を妨害されながら、泣く泣く諏訪さんが真横に居座るソファーに近づいて、コースターにカップを下ろした。


できる限り離れたところに立っているのは、せめてもの抵抗だ。


隣に座らないでどうにかできないかな。床に座る、のは嫌だしな。


……うーん、どうしよう。