あなたに捧げる不機嫌な口付け

諏訪さんの家に戻ってきて、さっそく買ったばかりのミルの箱を開けることになった。


一杯どうぞ、とありがたい提案があったのだ。


行きがけにカヌレを食べ損なったからちょうどいい。


カヌレがやっと食べられると上機嫌な私は、押しつけられた取り扱い説明書を大人しく読んでいる。


こういう作業は好きだから別に構わない。

自分で使うものの説明を人に押しつけた諏訪さんは怠惰だと思うけど。


……もしくは、説明書を読んだことを理由に、分からないところがあれば連絡するつもりなのかもしれない。


祐里恵は一通り読んでたでしょ、覚えてるなら祐里恵に聞いた方が早いかなと思って。

とか何とか言いそうな、……言わないかな。


面倒臭いし、帰るまでにざっくり説明してから帰ろう。


えっと、一回洗って。


……よし。


満足いく準備ができたので、ごみを処分しているはずの諏訪さんに声をかけようと顔を上げる。


「っ」


上げて、茶髪が真横に見えて、動揺した。


「祐里恵? どうしたの?」


いつのまにか私の隣で手元を覗き込んでいた諏訪さんに、誤魔化す間もなく肩が跳ねた。


全然気づかなかった。いつから。


いや、私が意識していなかっただけで、そういえば、見てていい? とか話しかけられた気がする。


じゃあさっき適当に頷いた、お湯を沸かそうか? というあれももしかして。