あなたに捧げる不機嫌な口付け

もちろんと言った。

もちろん情熱なんかないと言い切った。


ええ、ええ、そうだね、ないよ。


ないけど、「もちろん」に「好き」に「嫌いじゃない」?


断定しかしないなんて、随分な自信だ。


嫌いじゃないのは確かだけど、あくまで現時点でなのを忘れている。


私はいつだって諏訪さんを嫌いになるだろう。


挨拶の仕方が感じ悪かった、靴を揃えなかった、お礼をしなかった、いただきますとごちそうさまを言わなかった。


特別に情のない人を、そんなささいなきっかけで足切りするのはとても簡単だから。


……きっかけ、一つめ。


三角に換算しておいてから、何でもないように話を合わせる。


「だから、私たちの好きと恋人の好きはベクトルが違うんだってば」


もちろんとかつけた人に、好きの意味の違いが分からないなんて言わせない。


ライクとラブは当然違うけど、ライクにだって、ペットに対しての可愛がりとか親子愛とか兄弟愛とか友愛とか、いろいろあるでしょう。


諏訪さんも分かっているようで、論点を変えてきたのが小憎らしい。


「じゃあ何、お店の人に彼女じゃないって言ってどうするの?」


そう言われると弱いのは私だ。


ただの世間話に真剣に返したら、場の空気がおかしくなるのは目に見えている。