あなたに捧げる不機嫌な口付け

「諏訪さん、離れてってば」

「やだ」


やだ、じゃなくて。


私がどうでもいいことにはこだわらないことくらい、諏訪さんだって分かっているはずだ。


面倒臭くて普通なら放置するんだけど、今回はちょっと気にして欲しい。


「スカートの裾踏まないで。しわになる」


アイロンをかけるのは私。

面倒臭いのも私。


アイロンをかける方が面倒臭いから、まあいいや、とは思えなかった。


「それはごめん」

「全くだよ」


憎まれ口を叩いて引っ張った布地は、まだアイロンが必要なほどにはくせがついていない。


よかった。


「今度は休みの日に私服でおいで」

「…………」


こういうささいな出来事まで次の約束にするのが、諏訪さんがモテる理由だろう。


次なんてどれほど後からやってくるか分からないのに、待ちたくなって、諏訪さんを忘れないように気を配りたくなる言葉。


ささやかでこまやかな、凝った気遣いに見せかけた、ひどい言葉。


むすりと苺を頬張って返事に代えた私に、諏訪さんが苦笑する。


「呼んだら来てくれるんでしょ?」


確認のように、それでも一応疑問符をつけて持ち出された、私から結んだ約束事に。


「…………」


不本意ながらも黙って大きめに一口頬張れば、きちんと分かってる、だと理解した諏訪さんが、自分も同じように一口分を口に入れた。