あなたに捧げる不機嫌な口付け

諏訪さんに気を使わせたいわけじゃないから、無理しない範囲で安いものにしないといけない。


諏訪さんが黙ってありがとうと受け取ってくれるのは、きっとこのシュークリームみたいに一番安いものだ。


これ以上高くすると、次回のお菓子を奮発すると思う。


私はもっと高くてもいいんだけど。

どうせ物欲が少ない私では、お小遣いはそんなに使わない。

英断に感謝して欲しいくらい。


インターホンを鳴らすと、小綺麗な服に身を包んだ諏訪さんが笑顔で出迎えた。


諏訪さんは本当に自分に似合う色を見つけるのが上手だと思う。


いつもこざっぱりとしていて、よく似合っている。


「いらっしゃい」

「お邪魔します」


どうぞ、とにこやかに迎え入れられて、さらりと鍵を閉められた。


別にいい。


前回は閉められたら警戒したけど、今回はむしろ当然だし、閉めなかったら無用心すぎる。


諏訪さんを信用しているのではなくて、ただ単純に、鍵は閉めた方がいいと思う。

諏訪さんなら、鍵の開閉くらいで私の扱いを変えないだろうから。


玄関に靴を揃える私の手元を見て、諏訪さんは悲しげに眉を下げた。


「やっぱり買っちゃったか。いいのに……」


うう、と財布を突っ込んだポケットにしきりに目を向けている。