あなたに捧げる不機嫌な口付け

「周りはみんな酒入ってる。話はすぐ逸れたし、信じてなんかいなかった。そもそも覚えてるかも怪しいと思う」


諏訪さんは一応、連絡がつくあの日の参加者全員に、それとなく探りを入れてみたらしい。


その限りでは、誰も覚えていないだろうということだった。


騒がしさで聞こえていないか、覚えていないか、確実にどちらかだ、と。


「それでも」


強張る口を懸命に動かす。


諏訪さんの検証はどうでもいい。


だって誰も、諏訪さん以外誰も、もうほとんど会わない。


高校生だとかもらしたのは私を誘った従姉妹に決まっているし、彼女は飲むと記憶が飛ぶ人だし、もうこれからは絶対避けまくることにする。


「それでも……っ」


この感情が何なのか、まるで分からなかった。


泣きたいのか、悔しいのか、怒りたいのか。


……ああ、それでも。

今一番気にしているのは。


「諏訪さんは、覚えていて。……それを、信じたんでしょう」


弱りきった私の確認に、そうだよ、と諏訪さんは淡々と肯定した。


「信じないでくれたらよかったのに」


私に合わせてなのか、一緒に烏龍茶を飲んでいた諏訪さんは、終始飲酒していない。


酔っていないから、飲み会の途中で忘れてもらうのはどう足掻いても無理だ。


でも、せめて聞こえないか、聞こえても信じないでいてくれたらよかったのに。