あなたに捧げる不機嫌な口付け

電話でも何でも、連絡されればできるだけ丁寧に返したし、

デートに誘われればお洒落をして待ち合わせ場所に待機するくらいはしたし、

流石にキスとかはあまり乗り気じゃなかったからできる限り分かりにくくかわしたけど、別段拒否はしなかったし、

要望はできる範囲で叶えた。


食べたいと言われたら、バレンタインとか誕生日とかだけじゃなくて、何でもない週末にお菓子だって作った。

ちゃんと可愛いラッピングもして。


どんなに好きだよって言われても好きだよって返さなかったけど、まあでも多分、一般的なカップルだと充分言えるだろう。


だからそれなりに長続きして、最後は自然消滅。


毎回そんなこんなで今に至る。


結局、自分から誰かに告白したことも、ましてや好きになったこともない。


好きになること、恋をすることがどういうものなのか分からないわけではない。


胸が高鳴るとか大事にしたくなるとか、見たことも聞いたこともあった。


相手も友達も、街中で見かける人さえ、恋をしていた。


一人一人に恋情があった。

思慕があった。

嫉妬もあった。


それらを眺める度、へえ、こんな感じなんだな、なんて。


私にだって彼氏がいるのに、恋とか好きとかをちゃんと知っているはずなのに、いつも上手く実感が湧かなかった。


叶うなら、好みの人と、お互いにお互いが好きで特別な——きっと幸せな、幸せそうな、恋をしてみたかった。


「……好み、ね」


でも、まあ。