あなたに捧げる不機嫌な口付け

俺の方が年上でしょとか、男だからとか言われたら何とでも言えるけど、いいよ、と言われてしまったら、こちらもいいよとしか返せない。


反論じゃなくて遠慮しかできないから、このままでは奢られてしまう。


「ちょっと、ねえ、返して。いいよ、自分で払うよ」

「いいからいいから」

「払うってば」

「祐里恵が飲むなら俺もコーヒー飲むよ。コーヒー好きだし、コーヒーくらいなら全然高くないし、一緒に買えばいいだけだから。気にしない気にしない」


うーん。そんなに言うなら、まあ。


「…………アイスコーヒーとホットコーヒーくっつけないで」

「はーい」


よく分からない屁理屈を言い募りながら、とめる私を上手くかわして全部支払われてしまった。


イートインの隅を陣取る。


あまりドアの近くだと忙しないから、なるべく人気が少ない方。


これだけ美味しそうに飲んでいるのを見るに、コーヒーも好きというのは嘘ではないらしい。


「抹茶好きなの?」


向かいあって無言でいるのもどうかと思ったのか、無難な話題を振られた。


「この会社の抹茶は美味しいから」

「へえ」


美味しい抹茶は貴重なのだ。


うん、美味しい。


アイスに夢中な私に、ねえ、と諏訪さんは余計な一言を投げた。