あなたに捧げる不機嫌な口付け

諏訪さんはにっこり笑い、端に寄せてあったクッションを私に押しつけて立ち上がった。


「水飲んでくる」


……こういうときだけ正解を選ぶのか。


もしここで本当にキスしてきたら、今後一切関わりを絶とうかと思ったのに。


ちゃんとよりどころを残していくあたりも、本当に手慣れている。


「私にも水……というか、うがいしたいなこれ」


ちょっと気持ち悪いし、違和感あるし。


呟いて、少し声を張る。


「ねえ、うがいしたいからコップ借りていい?」

「え。さすがにそれは傷つくよー」

「ご自由にどうぞ」


うがいしたい理由を分かってしまったらしい諏訪さんが大袈裟に嘆いている。


でもまあ、駄目とは言わなかったから借りていいんだろう。


立ち上がって流しの隣に並ぶと、だからごめんって、とか謝ってきたけど脈絡がない。

言っとくけど、さっき謝ってないんだからね。


ひどいひどいと騒ぎながらも、しっかり水を汲んでくれた諏訪さんに短くお礼を言って受け取る。


盛大にガラガラって音を立ててうがいしてやろうか。

いや、でもそれだと行儀悪いし疲れるしやめよう。


悩んだ結果、諏訪さんがいっぱいに汲んでくれた水を少しずつ使って、ものすごく時間をかけて無心にうがいしてみた。