あなたに捧げる不機嫌な口付け

さらりと手を離して、私をソファーに座らせる。


諏訪さんはこちらを覗き込んで、一拍置いて苦笑した。


「なんでって顔だね」


まあいいけど、なんて一人で納得しないで欲しい。


引き留めたかったって言われても困る。ずるい。困る。混乱する。


「お茶くらい出すから、ちょっと待ってて」


黙り込むと、言い置いてキッチンに向かってしまった。


やかんを火にかけたのか、器に水を溜める音と短い機械音がする。


「……お茶菓子は」


分かったとは何となく言いたくなくて、不躾なことを代わりに聞いた。


当然のように汲み取った諏訪さんが、戸棚を見遣る。


「あったかなあ。探してみないと分かんな、」

「…………」

「あるある! あるから!」


慌てて冷蔵庫から取り出したのは、美味しそうな洋菓子が入っていると思しき白箱で。


戸棚を探していたのは、その高級そうな洋菓子を消費したくないがために安いお菓子を探していたらしい。


「飲み物は」


わざと図々しく聞くと、これまた慌てたように隣の棚をがさごそやって、小さく歓声を上げている。


「ある! コーヒーも紅茶も緑茶もあるよ!」


やたらと安心したように言われると、若干不本意だ。


どれだけ嫌なやつ認定されているんだ、私は。


よっぽど残しておきたいお菓子だったんだろうか。それは悪いことをした。


もちろん遠慮なく食べるけど。