あなたに捧げる不機嫌な口付け

不意打ちの指先に一瞬構えたけど、構えたのを知られたくなくて、強張って上がる肩を無理矢理下ろす。


諏訪さんはごく自然に、私の髪を一束すいた。


何度か往復した手がそのまま下りてくる。


「よし、取れた」

「ありがとう」

「どういたしまして」


さらっと肩を抱かれる。


左腕で私を抱え込むみたいにしてさりげなく向きを変えて歩き始めながら、部屋の中に誘導。


手慣れた仕草に、ジト目になる。


……本当に絡まっていたのか怪しい。完璧口実でしょこれ。別に、いいけど。


いつまでも玄関先にいるのはちょっとね。ソファーか何かに座らせてもらえたら楽だ。


だから別に、移動するのは構わない。


諏訪さんはしばらく私を帰す気がない、というのが明白なことに目を瞑れば。


「あのさ」

「何」

「さっき、祐里恵が言ったことだけど」


あいている手で扉を開けるのすら、若干開けにくい態勢なはずなのに、随分手慣れている。


ちょっとごめんね、と引き寄せられて、私もドアにぶつかることなく通り抜けた。


「祐里恵はショックなんて受けてくれないし、俺にそれを言っちゃう時点で望みは薄いし」


そのままで距離が近いのは……うん、わざとだな。


「引き留めたかったら帰らないでって言うしかないだろ?」

「へえ、引き留めたかったの?」

「引き留めたかったよ」


慎重に聞いた私とは真逆に、諏訪さんは至って軽く頷いた。