あなたに捧げる不機嫌な口付け

「いちいちこんな目に遭っていられないし、帰る」

「送るけど」

「……諏訪さん。私はあなたと離れたいの」


分かるでしょ? と唇を釣り上げる。


歪な笑みは威嚇になったらしい。諏訪さんが固まった。


私がどうしてここにいるのか分かっていながらのあれだ。


諏訪さんにはただの戯れだけど、私にとっては大迷惑で、ものすごく面倒臭かった。


諏訪さんならきっと、楽しめる範囲をちゃんと見極めて、面倒臭いことはしないと思っていたのに。


少し苛々するし、何より残念だし、とても面倒臭くて——不機嫌には、なる。


帰る、なんて分かりやすい引き止め方を残したのは、諏訪さんへの仕返しだ。


仕掛けるのは自由なんだから、使わない手はない。


今はまだお互い攻めあぐねて腹を探ってばかりいるけど、そのうち分かるだろう。


でもまあ、これは、欲しい返しが分かりやすすぎたかな、なんて微妙に反省しつつ。


「待って」


引き留められた腕に大人しく従った。


無言で見上げると、頭一つ分高い諏訪さんは、ごめん、と咳き込むように謝った。


「帰らないで、祐里恵」


……え。