あなたに捧げる不機嫌な口付け

黙って目で問えば、諏訪さんはつまらなさそうに唇を尖らせた。


「冷静だなあ、壁ドンだよ? もうちょっとリアクションあるでしょ」

「あるのは不快感だけだよ」


低く吐き捨てる。


壁ドンだって、喜んでくれる人にやれば効果的なシチュエーションなのは分かるけど、私は喜ばないのくらい察せるだろうに。


おそらく、喜ばないのはちゃんと見越したうえで、焦ったら面白いな、くらいの好奇心からだ。


諏訪さんは自分の予想が合っているかを試したんだろう。


確信の有無が私が望む通りに察するのに必要で、判断を左右するのは分かる。


それは分かるけど、甘んじて付き合う気はない。

別に今こんなことをしなくても、ちょっとずつお互いのくせに慣れていけば、経験でどうとでもなる。


さあ早く手をどけろ。


溜め息を吐いて、のそのそ体を起こした諏訪さんの隣を手早くすり抜けた。


「じゃ、私帰るから」

「え!?」


いや、え!? って。

むしろ何がえ!? なの。こんなの、帰るに決まっているじゃないか。


来たばかりだし、大丈夫だって言って中に入ったのも私だけど、そんなのはどうでもいい。


荷物は肩にかけたままの鞄の中だ。靴はすぐそこの玄関。

加えて、今の侮辱。


まあ実際、侮辱だなんて思ってないけど、帰るにはちょうどいい。


「場所は覚えた。次は来られるから迎えはいらない」


……次があるのかは分からない。


少なくとも自主的に来ることはないだろう。


ああでも、呼ばれたら来るくらいはしようか。


「待っ」