あなたに捧げる不機嫌な口付け

「……大丈夫」


もう一度繰り返して少し部屋に近づくと、意外そうに確認された。


「いいの?」

「いいの」


そっか、じゃあ。


「どうぞ。上がって?」


にっこり笑う諏訪さんに軽く頭を下げる。


「お邪魔します」

「うん。どうぞ」


迎え入れた諏訪さんが、靴を揃え終わるのを待って、悪戯っぽく私を覗き込んだ。


「いけない子だねえ」


妖しげな微笑み。

誘うような囁き。

仄かに甘い香水。


実に甘やかに笑って、後ろ手で軽やかに扉を閉める。


「……鍵は閉めないんだね」


答えずに皮肉れば、隣に靴を揃えた諏訪さんが、一瞬真面目な顔をした。


「さすがにね。これ以上警戒されると悲しいし」


でもね、祐里恵。


「誘われたって、よく知りもしない男の部屋に上がるのは危険だよ」


とん、と高い音をさせて、諏訪さんは諏訪さんと壁の間に私を囲い込んだ。