あなたに捧げる不機嫌な口付け

口約束では意味がないなら。確かな証拠が欲しいなら。

婚姻届が、こういう公的効力のある書類が、ちゃんと好きだって思われていると信じるための、確約になるのなら。


何度でも確約を示そうと、言う。


「もちろんそれに記名しなくたって俺は祐里恵のそばにいる。でも」


言葉を切って、恭介さんは届にしわが寄らない程度に私を抱きしめた。


「記名したら……?」

「もし記名してくれたら、うざいくらいずっと一緒にいるって約束する」


返すときは、してくれたら、に直す細やかさが好きだ。

面倒臭いだろうに、見放さない優しさが好きだ。


腕を伸ばして紙をできるだけ離れたところに置くと、首に回っていた腕が背中に下りてきた。


恭介さんと私の肩の距離がゼロになる。


「プロポーズ?」

「違うよ」


優しい吐息が聞こえる。


「プロポーズじゃなくて意思表示」


プロポーズはまた別の機会にね、と言って、少し体を離そうとしたから、とりあえず恭介さんの肩口に押しつけた額の上で、柔らかく微笑む気配がした。


「祐里恵?」

「ん」

「俺はきっと、祐里恵が思うより祐里恵のことが好きだよ」


知らなかったでしょ。


得意げに胸を張る恭介さんの首元で、くぐもったまま返答して。


「…………しらない」


私はうるさい心臓を隠したのだった。