あなたに捧げる不機嫌な口付け

余裕そうな微笑みに隠れた懇願を見抜けないほど、疎いわけじゃない。


受け取って、たった一枚の紙の重さに喉が詰まった。


基本事項は埋めてあるそれは、婚姻届という。


「いつだって、祐里恵が使いたいときに使ってくれて構わない」

「っ」


黒いインクで埋められているのは、恭介さんが書くべき左側だけだ。


真面目な口調に正して、ほんの少し震える手でそっと、空白を指差して。


「その欄を埋める権利は祐里恵にある」


ねえ、祐里恵。


「欲しいなら、確約を、あげるよ」


もう一度だけ厳かに告げられた、誓いに似た約束。


あげる、なんて、滅多に言わない恭介さんが、あげると明言した。

それだけで意味があった。


ひゅうと息がかすれる。


恭介さんが好きだ。


欲しい言葉を、欲しいものを、欲しいときにくれる恭介さんが、好きだ。


「……ごめん、重かった?」


不安げに揺れる瞳に、勢いよく首を振った。


大丈夫。少なくとも私にとっては重くない。

言葉は違えど、このような意味合いの約束を望んだのは私だ。重いはずがない。


よかった、と、舌たるく、嗄れた低音が響いて。


「祐里恵」


恭介さんはゆっくり意思表示をした。


「もし、この紙を祐里恵が確約って呼ぶならさ」


祐里恵にとってはそうなら。俺ももちろん確約だと思うから——


「だから、俺は何度だって、その欄に名前を書くよ」