あなたに捧げる不機嫌な口付け

ひどい殺し文句だと思った。


……ほんとうに、ひどいころしもんくだ。


黙って髪を乱す。


「ずっと一緒にいたら、『高校生の祐里恵』になれなくなるけどいいの?」


とりあえず前に言っていたことを返してみる。


試すような物言いに嫌な顔一つしないで、恭介さんは冷静に頷いた。


「次になるのは俺の彼女でしょ? そっちの方がもっと好き」


結果、私はくぐもった唸り声を上げるはめになって。


ああ、堂々とこういうことが言えてしまう辺りが、恭介さんが恭介さんたる所以なんだろう。


「祐里恵が近くにいてくれたらそれでいいよ」

「……恥ずかしげもなくよく言うね」

「恥ずかしがった時点で信じてくれないじゃん、祐里恵は」

「…………」


ああ、全く、もう。


あまりの見透かされようについには降参する。


「お返しのためにそばにいるなんて嫌。浪費する」


とりあえずの、精一杯を。


「そばにいるなら、もっと別のやり方があるでしょ?」


内容はともかく、言い方は可愛くない催促を。


「分からない恭介さんじゃあるまいし」


つんと顎を上げて横目に流し見て、言ってよ、の合図をした。


……何かしらの用意があるらしい。


恭介さんは至って平淡に受けとめて、にっこり笑って紙を差し出した。


「祐里恵に確約をあげる」