あなたに捧げる不機嫌な口付け




ホワイトデーがすぎて、市場に安くなったチョコレートがばらまかれるようになった。


お得なチョコをたくさん買い込んで、一口サイズのチョコを食べていると、恭介さんが私の肩を叩いた。


「ゆーりえっ」

「何?」


振り向きざまに手を取られたので何事かと思ったら、手のひらに高級そうな洋菓子の箱がのせられた。


「はい、これお返し」

「……は? ごめん、もう一回言ってもらえる?」

「お返し」


聞き間違いだって信じたかったのに、至って普通に言い直された。


ちょっと待って欲しい。


「私が渡したバレンタインのプレゼントじゃ、恭介さんがくれたホワイトデーのものに釣り合わないと思ったからイヤホンジャックで補足したのに、なにお返ししてるの?」


溜め息が盛大にこぼれる。受け取らなくていいかなこれ。


「なんなの、ほんとなんなの、お返しにお返しの連鎖でしょこのままじゃ……!」


罵り声を物騒に上げる私になぜか微笑んで、恭介さんは一つ甘ったるい提案をした。


「うん。だからさ。またお返しちょーだい」

「嫌」


即答した。

嫌だった。


私にお返しを望む意味なんて分かっている。


「お返しにお返しの連鎖、いいじゃん」


分かりきっている。


分かってるから、

お願いだから、


「だってそうしたら祐里恵、ずっと一緒にいてくれるだろ?」


——言うな、馬鹿。