あなたに捧げる不機嫌な口付け

たまたま他より少し長く眺めていたのをどうしてかきちんと見ていた恭介さんが、お財布買ったげる、なんて言い出したので、無駄遣いしないでと一蹴したものの、結局押し切られて買ってもらってしまった。


有名なブランドのもので、すごく素敵なデザインだし可愛いし嬉しいけど、返せるものがない。


「祐里恵がやっと消えるもの以外を贈らせてくれた……!」


とか感慨深そうに騒いでいたけど、贈られたのではなくて強いられただけだ。


……確かに、今までずっと食べ物しかもらわないでいた。


距離を縮めたい割に、何一つ形に残すなと言ってきたも同然で。


こんなに喜んでくれるなら、まあ、もらってよかったかもしれない。


帰宅途中でとても綺麗なイヤホンジャックを見つけて、二人でいいねと見ていたら、またまた買うとか言い出した恭介さんにさすがに怒りつつ、自分でお会計を済ませる。


そう何度も贈られると立つ瀬がないのでやめて欲しい。


ついでにお返しも思いついたので、それもこっそり一緒に購入する。


渡すのは帰ってからにしよう。


「恭介さん速く歩いて。遅い」

「え、何?」

「足疲れた。お腹空いた。ご飯食べたい」

「ああもう、分かったよ! 早く帰ろう!!」


早く渡したいから、早く帰ろうよ。