あなたに捧げる不機嫌な口付け

紳士だよ、と申告したのは諏訪さんだ。


「私は私を大切にするに決まってるでしょ」

「……お見合いかよ」

「駄目?」

「別に」


それだけ呟いて、他は特記なし、と。


不満はないらしい。

軽く見られては困るから、形だけでも抗議した事実を残しておきたかった、というところだろう。


無難な選択は正しい。

一番の下策は無反応なことだ。


口先だけで、いくらでも後からこちらに有利にできてしまう。


諏訪さんはやはり、脳みそにしわがきちんと刻まれているタイプのチャラい人らしかった。


「契約違反したら関係解消だから、そのつもりでよろしくね」

「了解」

「…………」


あれ。

……計算が狂った。


まだ私が優勢のままでいさせてくれるなんてーー了解、って分かりやすく言うなんて思わなかったんだけど。


ここまでくると、逆に意図が読めなくなってくる。


私が提示した条件では、諏訪さんにとって、ほとんど「彼女」の存在意義がない。おそらくだけど。


反対されたら意見のすり合わせをしていくつもりだったから、少しくらい譲歩しても大丈夫なように辛めにまとめたのに、何の交渉もなかった。


……こうまでして付き合いたい理由が分からない。


メリットは何。私同様、暇潰し?


密かに困惑しながら聞いてみる。


「そっちは何かないの」


そうだな、と少し考えて、諏訪さんはすごいことを言った。


「浮気は契約違反に含まれる?」