あなたに捧げる不機嫌な口付け

私は初めから、ちゃんとした、相手を大事にして相手から大事にされるような、甘い関係の「彼女」になるつもりはない。


おそらく諏訪さんもそれは分かっている。


ただ後腐れなく、面倒なく割り切って、どちらも少しくらいは楽しめればいいんじゃないだろうか。


彼女なんて呼ばれたくないから、名前に引っ張られてしまうと嫌だから、祐里恵でいい。


お互い気まぐれ、そんなことは承知の上だ。


比較的静かな路地に足音が揃う。


諏訪さんが私に合わせているから、重い靴音はほんの少し遅れている。


速めたり適当にリズムを変えたりしてみたけど、上手く調整して綺麗に合わせてくる。


……もっとずれたら面白いのに。


「いくつか提案があるんだけど」


がっかりしつつ駄目元で条件を出すと、諏訪さんはあっさりのった。


「分かった。それに従う」

「…………」


あまりに簡単に頷かれたものだから、むしろ予想外すぎて固まる。


これはあれだろうか、懐柔されているんだろうか。


ろくに内容も確認せずに丸飲みするって、この人は何を考えている。


……何も考えてないのかな。いや、それはないと思うけど。


本当にわけが分からない。


懐柔? 油断を誘ってる? 策略?


――それとも、同情か。


思いつきはなんだか少ししっくりきて、しっくりきた自分に腹が立った。