あなたに捧げる不機嫌な口付け

「ああでも、美人だなって思ったのは、嘘じゃないけど」

「…………」


なんて嘘臭い。


思わず白い目と無言を返せば、無声音で。


〝やっぱり、簡単に騙されてはくれないか〟


読み間違いでなければ、そう、唇が動いた。


騙す、なんてひどく物騒な響きなのに、苛立ちも怒りも湧かないのは、諏訪さんに計算高さが滲んだからだ。


もし好意的に見て欲しいなら、一番警戒されやすい計算高さは隠すべきだ。


計算高さが、隠そうと思えば入念に完璧に隠せるだろう鋭さが、雑にのぞいた。


諏訪さんはそれほど神経質に隠そうとしなかった。


……だからきっと、思わずこぼれたらしい無声音は、この人の、よく分からない諏訪恭介という人の、確かな本音だ。


この人なりの褒め言葉に違いない。


なぜか、そんな確信があった。


暇潰しか興味本位か、もしくはやっぱり何かしらのメリットがあって、後腐れなく私を利用したいんだろう。


それなら、皮肉な賞賛の分だけ、私も皮肉を返そうか。


「ねえ、諏訪さん」


「ん?」

「彼女の定義を決めよう」


強引だけど、前向きなのは伝わったらしい。


諏訪さんは美しい笑みを張りつけてこちらを振り向いて、頷いた。