あなたに捧げる不機嫌な口付け

聡いと思った私が間違っていたのだろうか。結構自信あったんだけど。


大袈裟に警戒して馬鹿を見たじゃないか。


鼻白みつつ投げやりな溜め息をもらせば、不用意にも、変な闘争心に火をつけてしまったらしい。


諏訪さんが力強くこちらを見た。


「誘う気はあるよ」

「……そう」


ふうん、と気のない返事をしつつ、さっさと帰ろうと早足で前に出たら、手を捕まえられて振り向かせられた。


諏訪さんが左側に立っているのに今さら気づいて眉を寄せる。


……しっかり車道側にいるなんて、間違いなく二人で歩くの慣れてるよね。

薄々そうじゃないかとは思っていたけど。主に見た目から。


「何」


案外顔が近くて、声は思ったよりとげとげしくなった。


冷たい彼の手から指先を強引に引き抜く。


「……祐里恵」


諏訪さんは逃れた指を少しだけ見て、大きく距離を詰めて。

妖しく透ける鳶色の目で、綺麗な顔で、私の視界を占めた。


「交渉成立ってことで、いいよな」


きつく唇を引き結ぶ。


あまりに距離が近くて、吐息が鼻をくすぐった。


「俺が自分から誘うなら、彼女になる気があるんだろ?」


……なあ、祐里恵。


諏訪さんは選択肢なんてくれないくせに、形だけの確認はしてみせる。


逸らせない視線の先で、切れ長の瞳とゆっくり目が合って。


この綺麗な目の持ち主と気まぐれに付き合うのも、案外、退屈凌ぎになるかもしれないと思った。


……何でもいい。面倒でなければ構わない。


「そうだね。まあ、いいんじゃないの」

「じゃあ、これからよろしく」


強気に笑えば、奇妙な秘めごとが始まった。