あなたに捧げる不機嫌な口付け

「っ」


恭介さんがきつく唇を噛んだ。


「分からないなんて言わないよ」


説明のためだろうか、もう一度口を開こうとするのを早口で遮る。


「だけど、それで信じられるほどのものは何もない」


もし破ったら私との付き合いを断つと宣言したからと言って、恭介さんの発言を鵜呑みにはできない。


言っていることの重大さも内容も、分かっている。


示すものは明確だし、恭介さんの素振りを見るに冗談ではないのだろう。


だけど、冗談ではないのこそ困るのだ。


ここで流すのは悪手。

認めるのも下策。


だから否定してはっきり意思表示するしかない。


「俺は、まだ祐里恵と一緒にいたいよ。一緒にいたいけど、もし約束破ったら関わらないって約束する。確約する」


つまり、恭介さんは私との約束に彼なりの最大級の縛り、重みを持たせていると主張しているわけなのだった。


「だから俺は絶対に約束を破れない。……それじゃ、駄目かな」


嗄れた声で静かにそう言う恭介さんから目を逸らして、目蓋を伏せる。


本気なのは分かる。


だけど、ここで恭介さんを信じたらまるで、恭介さんが私と離れ難く思っているのを信じているみたいじゃないか。


そんなこと、鵜呑みにしていいわけがないのに。


破れない、というのは上手い言葉遊びだ。


思いは風化する。

準じて、思いに由来する約束は風化する。


破れない約束はない。


ただ、今は破れない約束なだけだ。