あなたに捧げる不機嫌な口付け

「祐里恵?」


わざとらしく名前を呼ばれる。至近距離の吐息がくすぐったい。


これは、どうして欲しいか言って、のお達しだ。


恭介さんはこういうときだけ都合よく察しが悪くなる。

言ってくれなきゃどうして欲しいかなんて分からない、ととぼけてみせる。


「キス以上のことしていい?」

「駄目。この変態」


妖しい囁きは無理矢理流した。


弱ったところを突いたって落ちないからね、私。


そんな面白くない幕引きはいらない。


馬鹿なのアホなの、と恭介さんを睨みつけて、何かを口走りそうになる濡れた唇を、しっかり意識してから、慎重に、懸命に動かした。


「恭介さん」

「ん?」

「ソファー連れてって」

「はいはい」


上機嫌な恭介さんは、軽い足取りで私をソファーに横たえた。


「祐里恵軽いなー」

「重いよりマシ」

「えー、もうちょっとならいいと思うけどな」

「恭介さん個人の意見だけ参考にしても意味ない」


こういうのは一般論が大事なのだ。

一般的に普通、もしくは細め、ならそれで充分。


「太ったら恭介さんに運んでもらえなくなるでしょ」


いまだ不満げな恭介さんは、言下に甘えさせてよと伝えて黙らせて、さっさとクッションを抱き締めた。