あなたに捧げる不機嫌な口付け

「ねえ、祐里恵」


何、と返そうとした唇は、震える吐息を細く吐いただけだった。


「好きだよ」


囁きに思わず勢いよく顔を上げた馬鹿な私に、一瞬瞠目した恭介さんは熱っぽく瞳を緩ませて、容赦のないキスをした。


荒い呼吸で目蓋を閉じる。


キスをするときの恭介さんの瞳は、いつもあまりに多くを寄越すから、逃れられなくなる前に目を閉じる。


まだ大丈夫だと、言い訳が欲しくて。


「好きだよ」

「っ……」


何度も降る囁きに、すがるみたいに背中に腕を回した。


そうでもしないとどうにかなってしまいそうで、どうにかなるのは、それだけは嫌だった。


だって私はあまりに使える手札が少なすぎる。


我慢比べ、騙し合い。

誤魔化して、惑わせて、目を眩ませる。


私と恭介さんはそういう関係だ。


そうあれと初めに決めた。


定まった関係を私から破るのは、絶対に嫌だった。


それくらいは意地を張りたいじゃないか。


けれど。


「祐里恵」

「っ」


呼ばれた名前の強烈な甘さに、とうとう、腰が砕けた。


へたり、力が抜けた私がもたれかかると、いささか驚いて目を見張った後、凶悪なまでに甘く笑う。


そして、恭介さんは誘うようなキスをした。