あなたに捧げる不機嫌な口付け

先ほど髪をかけた耳に、恭介さんの囁きが落ちる。


脳が勝手にその大きな手の動きを追ってしまって、何が何だか、もうすでにいっぱいいっぱいだった私は、どんどん上がる体温に焦るままに答えた。


「なにっ」


恭介さんの声は耳障りがいい。

気持ち悪くない。


するりと入って溶けて惑わせる。


二人でいるとき、特に部屋の中にいるときくらいしか――部屋の中でキスするときくらいしか聞かないような、ひどく小さくて艶やかな囁き声に、勝手に心臓がうるさくなる。


条件づけて教え込まれた反射は甘やかだ。


「マフィン、いらないの?」

「いるに決まってるでしょ」

「じゃあ離してくれないと。渡せないよ?」

「分かってる……!」


マフィンは欲しいのに、言うことを聞いてくれない強張った指先が、赤い顔と相まって恭介さんを離さない。


このてをはなさないと。


はなさないと、だって、このままじゃまるで。


…………キス、して欲しい、みたいで。


……そんなこと、ないのに。