あなたに捧げる不機嫌な口付け

私はどうしても、諏訪さんがこちらに対価を渡さなければいけない形に持っていきたいのだ。


だって、私たちは交渉をしている、という建前というか前提というか、そんな状況が必要だと思うから。


そうしないと、私と諏訪さんではあまりに立場が違う。


いろいろな点で、特に性別、年齢、収入なんかで対等にはなれない。


自分より弱い立場の人間に無理強いしたら、諏訪さんの立場が悪くなってしまう。


……そんな心配をする辺り、案外、すでに興味が湧き始めているのかもしれなかった。


ぽかんと目を見開いて、少し考えて、思い至ったらしい。


「……やっぱいいねえ」


くつりと軽やかに喉を鳴らした諏訪さんは、笑いを堪えるように肩を震わせた。


「いいね祐里恵、思った通りだ」


楽しげに私を覗き込みながら、ちゃっかり名前で呼んだけど、まあいい。


「お褒めいただきありがとう。笑ってないで話して」

「はいはい」


催促すると、ようやく種明かしをした。


「だって君、俺のこと何とも思ってないだろ? 考え方もいいんだけどさ、何より無関心なのがいい」


……ほら、やっぱり油断ならない。


無関心なのがいい、だなんて。

君、だなんて。


自分こそが無関心なくせによく言う。


薄っぺらい笑顔は処世術で、名前呼びは、人懐こく見せて懐に入りやすくするため。


言われなくても分かる。


——諏訪さんは、とても綺麗な人だから。