あなたに捧げる不機嫌な口付け

「……諏訪さんはいつだって焦ってるでしょ」

「そんなことない」


ひどいな、とおどける諏訪さんに笑い返して、お互いに少しずつ笑い合う。


でも状況はそのままだから、何度目かの離して、を言った。


「ごめん、それは無理かな」

「……フェアじゃないね」

「フェアでいられないんだ」


苦く唇を噛んだ諏訪さんの、嗄れた声が降る。


「いい? って聞くから、うんって言って。離すのはその後」


この人は、こういうところが、こういうところこそがずるいのだ。


まるで選択肢を与えるみたいな素振りをするけど、私にはどうしようもない。


頷いたらもちろん駄目だし、黙秘は使えないし、否定したってこの頑固さでは同じことが繰り返されるだけだろう。


つまり詰んでいる。


……でも、嫌だ。

キスしてもいいかと聞かれて了承するなんて嫌だ。


諏訪さんの中では決定事項なのが、もっと嫌で。


諏訪さんがひどく飢えた瞳をしているのが、一番嫌だ。


「祐里恵、頷くだけでもいいから」

「意味が分からない、っ」


痛くはないぎりぎりまで強まった力から伝わる熱い体温と、大きな鼓動と、すがる手のひら。


驚いて両手を見遣る。


「諏訪さん……?」

「……頼むから、分かってよ」


何かを押さえつけた懇願に、思わず視線を上げて。


絡んだ眼差しに、呑まれた。