あなたに捧げる不機嫌な口付け

珍しく諏訪さんの言葉が荒れた。


綺麗な顔の造りの諏訪さんが使うと本格的に怖いから、別に面と向かっては何も言わないけど、諏訪さんの荒い言葉はちょっと苦手だ。


私が嫌がるからと、普段は言葉を選びに選んでおどけてくれている大人は。

何も言わないくせに、ずるくて優しいこの人は。


私が怯んだのを見て取って、きつく溜め息を押し殺した。


あいている片手を戒めのように固く握り締める。


目を閉じて、ぐっと眉間に力を入れて、ゆっくり緩めたのに合わせて、諏訪さんの雰囲気が柔らかくなった。


「……ごめん、焦った」


先ほどと打って変わって、今度はその表情も、手も、目も、口調も、ひどく優しい。


これが普段通りということは、諏訪さんはいつも、押さえつけて調整して、おどけて、そうして私のそばにいてくれているということだ。


そこまでして、慎重に、慎重に。


……別段、諏訪さんに口調を強いてしまっていることが甘えだとは思わない。


諏訪さんだってそう取って欲しくないから何も主張しないんだろうし。

もし、俺はわざわざ変えてやってるんだという雰囲気が出たら、そんな面倒臭い関係は放っておいて、即離れようと決めている。


それでいい。


それでいいはずなのに、どうして今さら、やっぱり甘えなのかなんて考えてしまうんだろう。


私を見つめる切れ長の目が、いろいろを押さえてひどく揺れているからだろうか。