あなたに捧げる不機嫌な口付け

「っ」


思わず勢いよく見上げると、諏訪さんが寂しげに笑った。


視線を合わせるための方便。

顔を上げて、じゃ駄目だから。


本当に顔を上げるかは分からなくて、でも嫌がるのもきっと顔を上げるのも分かっていて、そうして私は顔を上げた。


上げて、しまった。


でもごめんね、私、謝る気はないよ。


寂しげなまま眉が下がる。


「ごめん」

「……じゃあ、帰して」

「それは嫌だ」


矛盾しているのは明白で、諏訪さんが自嘲気味に鼻白ばむ。


「……随分、我がままなことを言うんだね」

「俺は我がままで、その上結構自分勝手だよ」

「いつでも紳士なんじゃなかったの」

「本当はね。残念ながら今は無理」


強引に目を合わさせた諏訪さんが、にっこり笑っておどけて。


ふいにひどく真面目な顔をして、怖いくらい真剣に、静かに静かに、宣言した。


「帰してなんか、やるかよ」


——俺は、祐里恵を帰してやる気はねえよ。