「ん? なに?」


そう言って振り向いた彼を、私はやっぱり、見ずにはいられなかった。


渡り廊下の終わりあたりで、こちらを振り返っている二人組の男子の、右側に立っているほう。

同じ学年だけれど、うちの学校はコースが分かれているので、違うコースの生徒のことは顔も名前も分からないことがほとんどだった。


だから、彼のことも、分からなかった。


(……あれが、木佐貫くん)


私は邪魔にならないように壁際に寄って、彼らの様子を眺める。


呼び掛けた男子が駆け寄っていき、木佐貫くんがなにか受け答えをして、彼の左側にいた男子はにこにこしながら二人を見ている。

離れているので、話は聞こえない。


呼び掛けた男子が手を振って立ち去っていくと、残った二人がまた前に向かって歩き出した。


木佐貫くんが手を合わせて隣の男子に頭を下げている。

彼はにっこり笑って頷き、木佐貫くんの肩を叩いた。


なんの話をしているんだろう。

なにか頼みごとをしているように見えたけど。


そんなことを考えながらじっと二人の様子を見ている自分が、かなり怪しくて不審なことにはっと気がついて、私は教室へと駆け戻った。