そして、二ヶ月近くが経つころには、自然と、こう思うようになっていた。


――手紙だけじゃ足りない。

彼と会って話したい。


時間が経てば思いは薄れてくれるかもしれない、と思っていたのに、逆だった。

前よりもっと、彼のことを好きになっている。


私は渡り廊下を歩きながら、窓の外に視線を投げてため息をついた。

外はもう初夏の香りのする風が吹きはじめている。


会ってみたい。

会って話をしたい。

一日おきの手紙なんかより、もっともっとたくさんの言葉を交わしたい。


……でも、無理だ。

そんなことは願うことさえ許されない。


だって、私は、彼を騙しているんだから。

彼は吉岡さんと手紙をやりとりしていると思っているんだから。


私は吉岡さんにも彼にも、真実を打ち明けることも謝ることもできないまま、

ずっと二人を欺きつづけて、嘘をつきつづけているのだ。


そんな私が、彼に会いたいなんて思っちゃいけない。


「おーい、木佐貫!」


突然、背後からその声が聞こえて、私は思わず肩を震わせ、廊下の真ん中で立ち止まった。


振り向くと、同じ学年のバッジをつけた男子が、前の方に向かって手を振っている。


……木佐貫。

それは、文通の相手――吉岡さんに一目惚れをしたというラブレターを書いたひとの名前だった。

珍しい名字だし、きっと、彼だ。


私はゆっくりと顔を前へ向ける。


この先に、彼がいる。

顔も知らない彼が、近くにいる。


みたい気持ちと、見たくない気持ちの間で、私の心はぐらぐらと揺れた。