「お婆様は私の傍らで、あの青い鳥を手のひらにころりと載せて、何日もぼうっとされていた」

「すぐに送り返したと、お聞きましたが……」

「本人は、そう感じたんでしょう。でも、一つ一つ、思うところを整理して、時間を掛けて答えを導き出されたのだと思います」

 歩美には、車椅子から庭を眺めている冬沙子の姿が、目に浮かぶ。

「自分は、お婆様の話し相手なのですよ。唯一の」

 洋一郎の言葉が耳に届く。

「お婆様は、自分の話し相手でもあるのです。唯一の」

 そう言うと、にっこりと笑った。


「あの」

「はい、なんです?」

「小さい頃、洋一郎さんの事を、私、何て呼んでいたのですか?」

「ハハハ」

 洋一郎は顔を反らして、庭を眺める。

「普通に、『お兄ちゃん』と呼んでいましたよ」

 ありふれたその答えが、歩美の心に注がれる。

「こんな自分で良ければ、いつでも相談に乗ります。どうか遠慮などしないで下さい」

 ようやく見付けたものだった。

 儚く消えてしまいそうだが、泣いてしまいたいぐらい、温かかった。