冬沙子のいる部屋を辞した歩美は、霧子に連れられ、更に屋敷の奥に案内される。

 水を利用して流れを楽しむような和風の庭園と、見覚えのある長い廊下。古寺のような床板が続き、踏みしめると、ギコギコと音を立てた。


「あの……」

「はい」

 歩美が霧子の背中に向かって声を掛けると、話掛けられるのを知っていたかのように、静かに立ち止まり、振り返る。

「あの、霧子さんとも、私は以前にお会いしているのでしょうか」

 記憶では、大人は沢山いた。その中に霧子がいたかどうか定かではない。

「ええ、洋一郎さんと遊んでおられるのを、部屋の隅から眺めておりましたのよ」

「そうでしたか」

「仲が良くて、洋一郎さんは貴方の世話を焼きたくて仕方がなかったみたいでした」

 ふふふ、と思い出しながら霧子が笑う。

「洋一郎さんは、ずっとこのお屋敷に?」

「ええ、一歩も外へお出になりません。詳しくは本人から直接お聞きになってはいかがでしょう」

 霧子は自分の息子だというのに、敬語を使っていたこと、そして一歩も外へ出ないという言葉に、歩美は引っ掛かった。

「さあ、行きましょう」


 霧子は歩美を奥へ、奥へと誘った。