「祖父が進めた都市開発事業でしょうか」

 思わず言ってしまった。歩美を苦しめているものが、そこにあった。

「やはり貴方は……、いや、でも、貴方にお話するのは、青いガラス細工の事だけですから」


 冬沙子は驚いた表情を作ると、しばらく押し黙った。


 正式には安西都市開発事業という。歩美の祖父、神坊忠が政界の大物議員を従え、強引に推し進めた国土開発事業である。日本国のため、が祖父の口癖だった。

 黒い噂が絶えず、知りたくもない話が、歩美の耳にいやが応にも入って来る。

 今まで歩美は、祖父の事業に目を背けてきた。

 それは触れてはいけないもの、自分が関わってはいけないものであると。

 しかし、そうして生きてきた事が本当に正しかったのか。自問するほど息が詰まった。


「貴方は苦しまなくてもいいの……、知らなくてもいいの。貴方がそこまで背負うことはないのよ」

 歩美をなだめるように、冬沙子は言った。


 解らない。とにかく、歩美の瞳から一筋の涙が溢れた。

 バッグから白いハンカチを取り出し、掬いあげる。

 その様子を、冬沙子が見ていた。

 歩美は、冬沙子の手の中にある壊れたガラス細工を見ていた。ハンカチを離すと、また、涙が出てきた。

 歩美はもう一度考える。女の子が一人、この世を去っている事実。壊れてしまった父親の存在。そして、自殺……。

 歩美の中で情報を整理するというより、無意識に抑えられていた様々な感情が、ここぞとばかりに現れ、掻き乱した。