「贈り物。利喜三さんからの……」

「私は吉岡利喜三の妻でした。正式に籍を入れていた訳ではありませんが。私たちには、娘がいましてね。利喜三さんの連れ子ですが、とても幸せでしたよ」

 冬沙子は破片をじっと見ている。

「でも、長くは続きませんでした。突然、踏切事故で幼い命を失ってしまったのです。利喜三さんの落胆ぶりはひどく、どうしても現実を受け入れられなかった」

「幼い、命……」

 歩美が呟く。

「元々、利喜三さんには親の代から受け継いだ土地や家などがありまして、私たちが生活でお金に困ることはありませんでした。ですが、余りのショックで利喜三さんの心が壊れてしまった。会話がなくなり、部屋に篭る。その部屋から一人でぶつぶつと話す声が、昼夜を問わず聞こえるのです。毎日、毎日。私はそんな夫を置き去りにして、人生をやり直す道を選びました」


 歩美の両脇から汗が滲む。幼い命が失われ、父親の精神の崩壊……。胸が締め付けられる。


「利喜三さんも同じ踏切で亡くなったと知って、驚いていたのですが、正直なところ、偶然なのかどうか」

「何か気になることでも?」

 含みを持った冬沙子の言い回しを、歩美が捉える。

「あの踏切は遮断機がぎりぎりまで下りません。工期短縮のため、開発の工事車両が引っきりなしに通過できるように、地元の有力者が手心を加えたとか噂にもなった曰く付きの踏切ですの。結局のところ、人が犠牲になっても、何も変わらなかったのね」


 冬沙子の言葉を聞くうちに、益々胸が痛くなった。歩美に心当たりがあったからである。