電話の先から聞こえてきたのは、中年女性の明瞭な声だった。

 歩美に心当たりはない。ただ、聞き慣れた訛りがあった。


「神坊様、でいらっしゃいますか」

「失礼ですが……」

「わたくし、神坊様の書かれたコラムを拝見した者で……」


 女性の話はこうであった。

 自分は歩美の記事を読んだ者である。

 女性の母が歩美のコラムをみて感銘し、是非お会いしてお話し出来ないかと言っている。

 女性の母は車椅子の状態なので、ご足労願えないか、とのこと。


 歩美は興味をそそられた。

 なぜなら、実はコラムで引き合いに出した内容が、たまたま同窓会で思い起こした「明け方のマリア」であったこと。

 さらに女性は、歩美がコラムで詳しく触れていなかった鳥の形をした青いガラス細工について、それはただの飾りではないと話し、持参して貰えないかというのだ。