髪の毛がふわふわと揺れる。少女は踏み切りの中央で立ち止まり、花の側でしゃがむ。

 小さな植物が人間たちの作り出した隙間で、懸命に生きていた。

 少女は草花に隠れていた小さな新芽を見付けると、嬉しそうに大きく口を開いた。


 カランカラン、ランラン。

 さっき開いたばかりの踏み切りに、けたたましく警告音が鳴り響く。

 気が付けば、両方の遮断機は下りていた。

 少女がやって来た側から、作業着を着た中年男性が、大声で叫びながら走ってくる。

 矢印は左を向いていた。

 少女は振り向いたが、男が両手を振り、必死に声を渇らすも、警告音がそれらを掻き消した。

 少女が立ち上がり、向こう側へ走ろうとした時、鉄の塊が空気を裂いて浮き上がった。

 金属音がつん裂き、大きな黒い陰が小さな体をすっぽりと覆う。

 少女が見上げた時には、全てが手遅れだった。

 男は歯ぐきを剥き出しにして、食い縛った。その様子の一部始終が、男の両眼に焼き付く。

「きゃああああああ」

 少女の甲高い悲鳴が、鼓膜が破れそうになるほど、男の耳でこだまする。

 ガクンと接触したそれは、もはや物体でしかなかった。

 小さな草花の何本かは、激しい風圧に千切れ飛んだ。

 カラン、ラン。

 何事もなかったかのように、踏み切りが開く。

 静寂を取り戻した後、男は道の真ん中で膝を付き、その場でへたり込んでいた。

 列を組んだトラックの一団が背後に迫り、乱暴にクラクションを鳴らす。トラックを止めた運転手たちは、窓から口々に毒付いていたが、やがて運転席から降り、男の周りに立って見下ろした。


 外の異変に気付き、近所の住人までが家から出てきていた。

 人々は現状を理解するため、放心状態の男と踏み切りを交互に眺めた。