そんなシズカとも久し振りに電話が繋がり、先日、こんなやりとりがあった。

「今夜は旦那が泊まりの出張なのよ。子供も寝たし、起きてるのはあたし一人」

 たまたまアユミがメールを送信すると、リアルタイムに返信が来た。お互いの状況が分かったことから、早速電話に切り替える。

「ねえ、アユミってさ、恋人とかいないの?」

「こいびと?」

 思わず声が裏返ってしまった。一人暮らしが幸いし、気に掛ける者は誰もいない。なのに、アユミは周りを気にする。

「そう、彼氏よ」

 正直、考えたこともなかった。毎日が精一杯で、アユミ自身、それどころではない。忙しくて、忙しくて、忙しいのだ。

 しかし、シズカが言っている彼氏とは、今まで過ごしてきた時間の全てを指していることぐらい解る。

「あっという間だよ。人生ってさ。気付いたら通り過ぎていたってことにならないように、ちゃんと捕まえておきなよ」

「うん。ありがとう」

「……ていうか、やっぱりいないの? 今、気になる人とか」

 気になるヒト……、今? 頭の中で文字をなぞる。

「いないよ」

 アユミは途中で考えることを諦めた。いないものはいない。自分がそう思ったからである。

 それでも、何だか無性に寂しくなってきた。どうしていないんだろう……などと、考えるのも初めてだ。

「アユミはね、それなりに美人なのよ。分かってる?」

「えっ?」

「同姓のあたしが保証するわ」

 シズカのそれなりという言葉が妙に引っ掛かる。しかし、いつものアユミなら、気にもしない話だ。