カラン、カラン、ランラン……。

 踏み切りの遮断機の前で、少女がひとり突っ立っている。空色のワンピースに、黄色い帽子。背負っている真っ赤なランドセルが映える。

 カラン、カン、カン、カン、カン……。

 ずれていた警告音が、微妙に重なり始める。

 少女はじっと待っている。表示された矢印は左を指している。

 少女は電車がやって来る右側を確認する。

 そこは、工業団地の隙間を縫うように設置された、踏み切りだった。カーブの直後に現れ、遠くから走って来る電車には、踏み切りの様子が見えない。少女の姿は、電車の運転席からは死角になっている。


 カラン、カランラン。

 踏み切り内には薄緑のかわいい草花が、たくさん咲いていた。それらが風に晒され、小刻に震えている。

 女の子はじっと、その花の様子を見ている。そして、ゆっくりと正面を向く。

 反対側に、誰もいなかった。少女の側にも、誰もいない。

 この踏み切りで、こんな光景は珍しかった。

 大抵は資材や土砂を沢山積んだトラックが、ひっきりなしにここを通っている。お陰で土埃が舞い、目や喉が痛くなるほどなのだ。


 その時である。けたたましい騒音と風圧と共に、いきなり現れた電車が、少女の前を通過する。

 思わず二三歩、後退りする少女。耳鳴りを残し、電車の後ろ姿を見送る。

 カラン、ラン。

 警告音が止む。

 横を向いている間に、遮断機があがる。少女はゆっくりと踏み切りの中に入った。