ブラック・ストロベリー







「アオイくん、なにすんだろうな」



隣で陸がつぶやいた。



同じようにあちこちで色んな疑問が飛び交っていた。

アオイは自由人、みたいな所があるから、そんな男がなにかするってなっただけでみんなからは色んな憶測が飛び交っていく。





「さあ、グッズでも投げるんじゃない?」


「いや、バンドってそんなことしねえよ」


アイドルじゃねえんだからさ、なんて陸が突っ込むけど、そーゆーのを見て昔楽しそうだなって言ってたし、やりかねないなと思う。



「でも、アオイだし」




昔っから急に突拍子もないことをするのだ。


デビュー決まった時だって、家帰ってきて「腹減った」って言った直後に言ってきた。



『オムライス作って』


ただいまの次、そう言ってきたアオイに対してなんかいい事あったの?って聞いた。


『あー、デビュー決まった』



だって腹減ってるんだもん、と同じテンションであまりにも普通に言うから、へえ、そうなんだ、って言ったあと、考え直して変な顔してアオイのことみたんだよね。





アオイの好きな食べ物はオムライスだ。

可愛いな、と思うのは私が作ったオムライスを食べてから好きになったところ。

たまご本当は、嫌いだったのにね。





「軽く客席ダイブするくらいじゃね?」


バンドマンが客席に埋もれることはまあしょっちゅうじゃないけどあることらしい。インディーズから好きな人とかがわんさかいる最前に落ちるのって、なかなかだと思うけど。




「え、それは、やだ」


素直にぽろっとこぼれた本音に、隣で陸が吹き出すのが分かったけど、それだけはやめてほしい。




ファンが届く距離に、行ってほしくないのだ。



離れないでいて、

でもほかの人が届く距離にいないで。





この会場で、アオイに触れられるのは、私だけの特権なのだ


アオイはどうしてもわたしを選ぶんだ、私を選んだから、だからほかの人に触れるなんて、そんなのってないよ。




家を出るって決めたとき、変な報道が出たとき、わたしはアオイを信じられなかったんじゃない。


わたし以外の誰かがアオイに届く距離にいたことが、悔しかったのだ。




我儘で、嫉妬深くて、

我ながら自己中な女だと思うけど、それも全部、長い間私を離さなかったアオイが悪い。